物理 / 様々な運動
相対速度
要点整理
電車に乗っているとき、同じ速さで並んで走っている別の電車は、まるで止まっているように見えます。逆に、反対方向に走る電車はものすごい速さですれ違って見えます。このように、「自分(観測者)がどれだけの速度で動いているか」によって、他の物体の速度の見え方が変わります。この、ある観測者から見たときの物体の速度を相対速度と呼びます。
相対速度の定義
地面に対する物体Aの速度を $\vec{v}_A$、物体Bの速度を $\vec{v}_B$ とします(これらは地面という共通の基準から見た速度なので、静止系での速度と呼びます)。このとき、「Aから見たBの相対速度」を $\vec{v}_{AB}$ と書くことにすると、
$\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B - \vec{v}_A$
という関係が成り立ちます。この式の意味を丁寧に確認しましょう。左辺の $\vec{v}_{AB}$ は「Aの立場に立ったとき、Bがどのように動いて見えるか」を表すベクトルです。右辺は「Bの速度から、Aの速度を引き算する」という計算を表しています。
なぜ引き算になるのか、直線上の単純な場合で考えてみます。Aが東向きに時速60 km、Bが東向きに時速80 kmで走っているとします。Aから見ると、Bは自分より時速20 km速く走っているので、東向きに時速20 kmで遠ざかっていくように見えます。実際に式に当てはめると、東向きを正として $v_A = 60$、$v_B = 80$ なので、
$v_{AB} = v_B - v_A = 80 - 60 = 20 \text{ km/h}$
となり、直感と一致します。
反対方向に進む場合も確認しましょう。Aが東向きに時速60 km、Bが西向きに時速40 km(つまり東向きを正とすると $v_B = -40$)で走っているとすると、
$v_{AB} = v_B - v_A = -40 - 60 = -100 \text{ km/h}$
Aから見るとBは西向きに時速100 kmですれ違っていくように見える、ということです。2台の速さを単純に足し算した「時速100 km」という値が出てきますが、これは偶然ではありません。近づき合う相手との相対速度は、それぞれの速さの和になるのです。
ベクトルとしての相対速度
平面上の運動では、$\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B - \vec{v}_A$ の引き算をベクトルのまま行います。ベクトルの引き算は、成分ごとに引き算をすればよいので、
$v_{AB,x} = v_{B,x} - v_{A,x}, \qquad v_{AB,y} = v_{B,y} - v_{A,y}$
という計算をします。図で考える場合は、$\vec{v}_B$ の矢印の始点に $-\vec{v}_A$(Aの速度ベクトルを逆向きにした矢印)をつなげる、と考えると作図しやすくなります。
相対速度の代表的な利用例:川を渡る船
流れのある川を船で渡る問題は、相対速度の考え方が典型的に使われる場面です。船が静水(流れのない水面)に対して出せる速度を $\vec{v}_{船}$、川の流れの速度を $\vec{v}_{川}$ とすると、岸(静止している地面)から見た船の実際の速度 $\vec{v}_{実際}$ は、
$\vec{v}_{実際} = \vec{v}_{船} + \vec{v}_{川}$
となります。これは相対速度の式 $\vec{v}_{AB}=\vec{v}_B-\vec{v}_A$ を「岸(静止系)から見た船の速度 $=$ 船から見た船自身の速度 $+$ 岸から見た川(水)の速度」と読み替えたもので、実質的に同じ考え方です。「船から見た岸の速度」と「岸から見た船の速度」は向きが逆であることに注意して式を立てると、迷わず立式できます。
下のシミュレーションでは、物体A・Bそれぞれの速さと向き(角度)を変えられます。それぞれの速度ベクトルと、AからみたBの相対速度ベクトル $\vec{v}_{AB}$ がどう変わるか確認してみましょう。
例題
例題1(基本)
問題
一直線の道を、東向きを正として、自動車Aが速度20 m/s、自動車Bが速度32 m/sで同じ向きに走っています。Aから見たBの相対速度を求めなさい。
解答・解説を見る
相対速度の式 $\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B - \vec{v}_A$ に、それぞれの値を当てはめます。東向きを正とすると $v_A = 20$ m/s、$v_B = 32$ m/sなので、
$v_{AB} = v_B - v_A = 32 - 20 = 12 \text{ m/s}$
符号が正なので、向きは東向きです。したがって、Aから見るとBは東向きに12 m/sの速さで自分から遠ざかっていくように見えます。
例題2(標準)
問題
東向きを正として、自動車Aが東向きに15 m/s、自動車Bが西向きに10 m/sで走っています(互いに向かい合って近づいてくる状況です)。Aから見たBの相対速度を求めなさい。
解答・解説を見る
東向きを正とするので、Aの速度は $v_A = 15$ m/s、Bは西向きなので $v_B = -10$ m/sと表せます。相対速度の式に代入すると、
$v_{AB} = v_B - v_A = (-10) - 15 = -25 \text{ m/s}$
符号が負なので、向きは西向きです。大きさは25 m/sなので、Aから見るとBは西向きに25 m/sの速さで近づいてくるように見えます。この25 m/sという値は、2台の速さの単純な和 $15+10=25$ と一致していますが、これは向かい合って進む物体同士の相対速度が、互いの速さの和になるためです。
例題3(応用)
問題
静水に対して6.0 m/sの速さを出せる船があります。川は南から北に向かって3.0 m/sの速さで流れています。この船が真東(流れに対して垂直な向き)に船首を向けて進んだとき、岸から見た船の実際の速度の大きさと向きを求めなさい。ただし、東向きをx軸の正、北向きをy軸の正とします。
解答・解説を見る
この問題は、「岸(静止系)から見た船の速度」を「船自身が出す速度」と「川の流れの速度」の合成として考える問題です。
船が静水に対して出す速度は、真東向きに6.0 m/sなので、成分で表すと、
$\vec{v}_{船} = (6.0, 0) \text{ m/s}$
川の流れの速度は、南から北向きに3.0 m/sなので、
$\vec{v}_{川} = (0, 3.0) \text{ m/s}$
岸から見た船の実際の速度は、この2つのベクトルの和になります。
$\vec{v}_{実際} = \vec{v}_{船} + \vec{v}_{川} = (6.0 + 0,\ 0 + 3.0) = (6.0,\ 3.0) \text{ m/s}$
大きさは三平方の定理を使って、
$|\vec{v}_{実際}| = \sqrt{6.0^2 + 3.0^2} = \sqrt{36 + 9} = \sqrt{45} \approx 6.7 \text{ m/s}$
向きについては、東向き(x軸)からのなす角を $\theta$ とすると、
$\tan\theta = \frac{3.0}{6.0} = 0.5$
より、$\theta \approx 27^\circ$ です。したがって、岸から見ると船は東からおよそ27°北寄りの向きに、約6.7 m/sの速さで進んでいくように見えます。船首を真東に向けていても、川の流れに押される分だけ実際の進路は北にずれる、という点が重要です。
練習問題
問題
電車Aが東向きに25 m/s、電車Bが東向きに18 m/sで走っています。Aから見たBの相対速度を求め、その意味(Bはどちらの向きにどれだけの速さで動いて見えるか)を答えなさい。
答え
$v_{AB} = v_B - v_A = 18 - 25 = -7$ m/s。負の符号は西向きを意味するので、Aから見るとBは西向きに7 m/sの速さで(つまりAより遅いので、相対的に後方に)遠ざかっていくように見えます。