物理基礎 / 運動とエネルギー
仕事とその原理
要点整理
前のページまでで、力と運動の関係(運動方程式)を学びました。ここからは、力がする「仕事」という考え方を通じて、物体の運動をエネルギーの視点から見ていきます。
仕事の定義
物体に力を加えて、その力の向きに物体を動かしたとき、その力は物体に対して仕事をした、といいます。力の大きさを $F$、物体が移動した距離を $x$、力の向きと移動の向きのなす角を $\theta$ とすると、仕事 $W$ は次の式で定義されます。
$W = Fx\cos\theta$
仕事の単位はジュール($\mathrm{J}$)で、$1\ \mathrm{J} = 1\ \mathrm{N}\times 1\ \mathrm{m}$ と定義されています。
この式で特に注目してほしいのが $\cos\theta$ の部分です。
- 力の向きと移動の向きが同じ($\theta=0°$)とき、$\cos 0°=1$ なので、$W=Fx$ となり、最も単純な形になります。
- 力の向きと移動の向きが垂直($\theta=90°$)のとき、$\cos 90°=0$ なので、$W=0$ になります。つまり、移動の向きに対して垂直にはたらく力は、まったく仕事をしません。たとえば、荷物を持って水平に歩くとき、腕が支える力(上向き)は、移動の向き(水平)に対して垂直なので、仕事をしていないことになります。
- 力の向きと移動の向きが反対($\theta=180°$)のとき、$\cos 180°=-1$ なので、$W$ は負の値になります。摩擦力のように運動を妨げる向きにはたらく力は、負の仕事をしている、と表現します。
仕事の原理
滑車や斜面などの道具を使うと、物体を持ち上げるのに必要な力を小さくすることができます。しかし、これは「楽をして仕事の量まで減らせる」という意味ではありません。
たとえば、質量 $m$ の物体を高さ $h$ までまっすぐ持ち上げる場合、必要な力は重さと同じ $mg$ で、移動距離は $h$ なので、仕事は $W=mgh$ です。
一方、同じ高さ $h$ まで、角度 $\theta$ の摩擦のない斜面を使って物体を押し上げる場合を考えます。斜面に沿って物体を押し上げるのに必要な力は、重力の斜面方向の成分 $mg\sin\theta$ だけで済みます(前のページで学んだ力の分解の考え方です)。ただし、その代わりに、斜面に沿って移動しなければならない距離は、高さ $h$ よりも長い $\dfrac{h}{\sin\theta}$ になります。このときの仕事を計算すると、
$W = mg\sin\theta \times \frac{h}{\sin\theta} = mgh$
$\sin\theta$ が約分されて消え、まっすぐ持ち上げたときとまったく同じ $mgh$ になることがわかります。
このように、道具を使って必要な力を小さくできても、その分だけ移動距離が長くなるため、力がする仕事の総量は変わりません。これを仕事の原理と呼びます。摩擦や道具自体の重さを考えない、理想的な状況で成り立つ原理です。
下のシミュレーションで、高さ $5\ \mathrm{m}$ の位置まで物体を持ち上げる場合について、斜面の角度と物体の質量を変えながら、「まっすぐ持ち上げる場合」と「斜面を使う場合」で、必要な力(棒グラフの高さ)がどう変わるか確認してみましょう。
例題
例題1(基本)
問題
床の上の物体を、力の向きと移動の向きが同じになるように、$10\ \mathrm{N}$ の力で $5\ \mathrm{m}$ 動かした。この力がした仕事を求めよ。
解答・解説を見る
力の向きと移動の向きが同じなので $\theta=0°$、$\cos 0°=1$ です。$W=Fx\cos\theta$ に $F=10$、$x=5$ を代入します。
$W = 10\times 5\times 1 = 50\ \mathrm{J}$
答え:$50\ \mathrm{J}$
例題2(標準)
問題
床の上の物体を、水平から $60°$ の角度で $20\ \mathrm{N}$ の力を加えながら、水平に $8\ \mathrm{m}$ 動かした。この力がした仕事を求めよ。$\cos 60°=0.5$ とする。
解答・解説を見る
力の向きと移動の向きのなす角は $\theta=60°$ です。$W=Fx\cos\theta$ に $F=20$、$x=8$、$\cos\theta=0.5$ を代入します。
$W = 20\times 8\times 0.5 = 80\ \mathrm{J}$
答え:$80\ \mathrm{J}$
例題3(応用)
問題
質量 $15\ \mathrm{kg}$ の荷物を、まず真上に $1.5\ \mathrm{m}$ 持ち上げ、その後、同じ高さを保ったまま水平に $10\ \mathrm{m}$ 運んだ。$g=9.8\ \mathrm{m/s^2}$ とする。
(1) 持ち上げる間に、支える力がした仕事を求めよ。 (2) 水平に運ぶ間に、支える力がした仕事を求めよ。 (3) 一連の動作全体で、支える力がした仕事の合計を求めよ。
解答・解説を見る
荷物を支える力の大きさは、常に重力とつり合う $mg$ です。
$mg = 15\times 9.8 = 147\ \mathrm{N}$
(1) 持ち上げる間
力の向き(上向き)と移動の向き(上向き)が同じなので $\theta=0°$ です。
$W_1 = 147\times 1.5\times\cos 0° = 147\times 1.5 = 220.5\ \mathrm{J}$
(2) 水平に運ぶ間
支える力は上向き、移動の向きは水平なので、力の向きと移動の向きは垂直、つまり $\theta=90°$ です。$\cos 90°=0$ なので、
$W_2 = 147\times 10\times\cos 90° = 147\times 10\times 0 = 0\ \mathrm{J}$
(3) 合計
$W_1+W_2 = 220.5+0=220.5\ \mathrm{J}$
答え:(1) $220.5\ \mathrm{J}$、(2) $0\ \mathrm{J}$、(3) $220.5\ \mathrm{J}$
水平に運ぶ間は、力を加え続けているにもかかわらず仕事は $0$ になります。「力を加えている=仕事をしている」とは限らないことに注意しましょう。
練習問題
問題
床の上の物体を、水平から $37°$ の角度で $25\ \mathrm{N}$ の力を加えながら、水平に $6\ \mathrm{m}$ 動かした。この力がした仕事を求めよ。$\cos 37°=0.80$ とする。
答え
$W=25\times 6\times 0.80=120\ \mathrm{J}$