物理 / 様々な運動
力のモーメントと重心
要点整理
前のセクションで、剛体が静止し続けるためには「力のつり合い」に加えて「回転のつり合い」が必要だと学びました。ここでは、回転させようとするはたらきを表す力のモーメントを具体的に定義し、数値として計算できるようにします。
力のモーメントの定義
ドアを開けるとき、ドアノブに近い場所を押すよりも、ドアノブから遠い場所(蝶番から遠い場所)を押すほうが、同じ力でも簡単にドアが開きます。これは、回転させようとするはたらきが、力の大きさだけでなく、回転の中心からどれだけ離れた場所に力を加えるかにも関係していることを示しています。
回転の中心となる点(支点)から、力の向きに引いた直線(作用線)までの垂直距離を腕の長さと呼び、記号 $\ell$ で表します。このとき、力のモーメント $M$ は、
$M = F\ell$
と定義されます。ここで $F$ は力の大きさです。力のモーメントの単位は、力の単位N(ニュートン)と長さの単位m(メートル)の積なので、N・m(ニュートンメートル)になります。
力のモーメントには、回転の向き(時計回りか反時計回りか)があります。計算をするときは、たとえば「反時計回りを正」のように向きを決めて、時計回りのモーメントには負の符号をつけて計算します。
腕の長さ $\ell$ を求めるときに注意すべき点があります。それは、支点から力を加えた点までの距離をそのまま使うのではなく、支点から作用線までの垂直距離を使うという点です。力が支点からの直線に対して斜めにはたらいている場合は、力を支点からの直線に垂直な成分と平行な成分に分解し、垂直な成分の大きさと支点から力の作用点までの距離を掛け合わせて求めるか、あるいは支点から作用線に直接垂線を下ろしてその長さを求めます。力の向きが、支点から力の作用点までを結ぶ直線と垂直である場合は、腕の長さはそのまま支点から作用点までの距離に一致します。
モーメントのつり合い
剛体がある点のまわりで回転しないためには、その点のまわりの力のモーメントの合計が0である必要があります。
$\sum M = 0$
これは、時計回りのモーメントの合計と、反時計回りのモーメントの合計が等しい、と言い換えることもできます。実際に問題を解くときは、この形で使うことが多いです。
$(\text{時計回りのモーメントの和}) = (\text{反時計回りのモーメントの和})$
なお、モーメントのつり合いはどの点を支点(モーメントの中心)として選んでも成り立ちます。物体が実際に回転していない(静止している)のであれば、どの点のまわりで考えても、その点のまわりのモーメントの合計は0になります。問題を解くときは、計算が簡単になるように、なるべく多くの未知の力が集まっている点を支点に選ぶとよいでしょう(その点にはたらく力は、その点からの腕の長さが0なので、モーメントの計算に登場しなくなるからです)。
重心
物体のあらゆる部分には重力がはたらいていますが、これらをすべて1つの力として置き換えて考えることができる点を重心と呼びます。重心の位置を求めるには、物体を細かい部分に分けて、それぞれの質量とその位置を使い、次のような「加重平均(重みつき平均)」の計算をします。物体がいくつかの質点(質量 $m_1, m_2, \dots$)からできていて、それぞれのx座標が $x_1, x_2, \dots$ であるとすると、全体の重心のx座標 $x_G$ は、
$x_G = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2 + \cdots}{m_1 + m_2 + \cdots} = \frac{\sum m_i x_i}{\sum m_i}$
で求められます。y座標についても同様の式で求められます。この式は、質量の大きい部分ほど重心の位置に強く影響する、ということを表しています。一様な棒や円板のように形が対称な物体では、重心はその図形の中心(対称の中心)にあります。
剛体の重力によるつり合いの問題では、「物体全体にはたらく重力は、重心の1点に集中してはたらく」と考えて計算します。これにより、複雑な形の物体でも、重心の位置さえわかれば、質点と同じように重力の効果を1つの矢印として扱うことができます。
下のシミュレーションは、支点で支えられたシーソー(てこ)です。左右のおもりの重さと、支点からの距離を変えて、モーメントのつり合いがとれる条件を探してみましょう。
例題
例題1(基本)
問題
支点から2.0 mの距離に、支点からの直線に垂直な向きで15 Nの力を加えました。この力による、支点のまわりの力のモーメントの大きさを求めなさい。
解答・解説を見る
力が支点からの直線に垂直にはたらいているので、腕の長さ $\ell$ は支点から力の作用点までの距離とそのまま等しく、$\ell = 2.0$ mです。モーメントの公式 $M=F\ell$ に代入すると、
$M = 15 \times 2.0 = 30 \text{ N·m}$
したがって、力のモーメントの大きさは30 N・mです。
例題2(標準)
問題
質量が無視できる棒の一端を支点で支え、支点から3.0 mの位置に鉛直下向きに12 Nの重さのおもりを吊るしました。この棒を水平に保つために、支点から1.0 mの位置(おもりと同じ側)に鉛直上向きの力を加えて支えるとすると、必要な力の大きさを求めなさい。
解答・解説を見る
支点のまわりのモーメントのつり合いを考えます。支点自身にはたらく力は、支点からの腕の長さが0なので、モーメントの計算には登場しません。
おもりによる下向きの力(支点から3.0 mの位置)は、棒を支点のまわりに、たとえば時計回りに回転させようとします。そのモーメントの大きさは、
$M_{おもり} = 12 \times 3.0 = 36 \text{ N·m(時計回り)}$
一方、上向きの支える力(支点から1.0 mの位置、大きさ $F$)は、おもりとは逆向き(反時計回り)に棒を回転させようとします。そのモーメントの大きさは、
$M_{支え} = F \times 1.0 \text{ N·m(反時計回り)}$
棒が水平を保つ(回転しない)ためには、時計回りと反時計回りのモーメントの大きさが等しくなければなりません。
$M_{支え} = M_{おもり}$
$F \times 1.0 = 36$
$F = 36 \text{ N}$
したがって、必要な力の大きさは36 Nです。支点からの腕の長さが短い位置(1.0 m)で支えるためには、おもりの重さ(12 N)よりも大きな力(36 N)が必要になる、という点がこの問題のポイントです。腕を短くするほど、同じモーメントを生み出すために必要な力は大きくなります。
例題3(応用)
問題
質量が無視できる長さ6.0 mの棒の両端Pと点Qを支点として水平に支え、棒の上のある1点に80 Nの物体を置いたところ、点Pにはたらく力(垂直抗力)は50 N、点Qにはたらく力は30 Nでした。物体は棒のP端から何mの位置に置かれていたか求めなさい。
解答・解説を見る
まず、力のつり合い(並進のつり合い)を確認します。上向きを正とすると、P点の支える力50 N、Q点の支える力30 N、物体の重さ80 N(下向き)なので、
$50 + 30 - 80 = 0$
たしかにつり合っています。次に、P点のまわりのモーメントのつり合いを考えます。P点を支点に選ぶと、P点自身にはたらく力(50 N)は腕の長さが0なのでモーメントに寄与しません。
Q点にはたらく力30 Nは、Pから6.0 mの位置に上向きにはたらいているので、そのモーメントは(反時計回りを正とすると)、
$M_Q = 30 \times 6.0 = 180 \text{ N·m(反時計回り)}$
物体の重さ80 Nは、Pから物体までの距離を $x$ [m]とすると、下向きの力なので時計回りのモーメントを生み出します。
$M_{物体} = 80 \times x \text{ N·m(時計回り)}$
P点のまわりでモーメントがつり合っているので、時計回りと反時計回りのモーメントの大きさが等しくなります。
$80 \times x = 180$
$x = \frac{180}{80} = 2.25 \text{ m}$
したがって、物体はP端から2.25 mの位置に置かれていたことがわかります。
練習問題
問題
長さ5.0 mの軽い棒の中央を支点として支え、支点から2.0 mの位置に左向きの腕で10 Nのおもりを、支点から $x$ [m]の位置に右向きの腕で25 Nのおもりを吊るしたところ、棒はちょうど水平につり合いました。$x$ の値を求めなさい。
答え
モーメントのつり合いより $10\times2.0 = 25\times x$ なので、$x = \dfrac{20}{25} = 0.8$ m。